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税理士事務所

住職個人名義の境内地や庫裏の土地──相続時は「非課税」にならない?宗教法人との境界を整理

寺院を代々守ってきたご住職の中には、境内の一部や庫裏(住職の居住建物)が**個人名義の土地**になっているケースが少なくありません。
しかし、このような土地は、相続が発生した際に「宗教法人のために使われていたから非課税では?」と思われがちです。
今回は、**相続税法上の「非課税財産」に該当するかどうか**を、実際の事例と法律の根拠をもとに解説します。
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## 1. 「境内地=宗教用地」でも、所有者が個人なら非課税にはならない
結論から言えば、**住職個人名義の境内地や庫裏の敷地は、相続税法上の非課税財産には該当しません。**
理由は明快で、相続税法第12条第1項第2号および第3号で定める「非課税財産」の要件を満たさないためです。
### (1)第12条1項2号:墓所・霊廟等
この非課税規定は、**「所有者の祖先を祭祀するための墓所・霊廟」**に限定されています。
したがって、住職個人の所有地であっても、それが**寺院の儀式や宗教活動のために使われている**だけでは対象外です。
つまり、「寺のために貸していた土地」は、**住職自身の祖先祭祀用地ではない**ため、非課税にはなりません。
### (2)第12条1項3号:公益を目的とする事業の用に供する財産
この規定は、**個人が公益事業を自ら主宰しており、相続財産をその事業に使う場合**に限って非課税とされます。
ところが寺院は「宗教法人」という**独立した法人格**を持つ組織です。
個人(住職)は宗教活動を代表する立場であっても、「宗教法人の公益事業の主宰者」ではないため、この条文も適用されません。
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## 2. よくある誤解:「宗教目的だから非課税」ではない
宗教法人の境内として使用されていた土地でも、
名義が住職個人にある場合は、**税法上“個人財産”として扱われます。**
- 宗教法人が所有している土地 → 法人の財産(相続税の対象外)
- 住職個人が所有している土地 → 個人財産(相続税の対象)
この違いは非常に重要です。
「実質的には寺のための土地だから大丈夫だろう」と安易に考えていると、
相続時に高額な税負担が発生するケースもあります。
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## 3. 今からできる対策──名義の整理と法人化を検討
住職の代替わりを見据えるなら、早めに**所有名義と使用実態の整理**をしておくことが大切です。
### (1)土地名義を宗教法人に移転
- 境内地や庫裏の敷地を法人名義に変更する
- 宗教活動に供していることを明確にしておく(登記・会計上の記録)
### (2)地代や使用契約を明文化
- 個人所有地を法人が使用している場合、地代の有無や契約内容を文書化
- 将来の税務調査で「実態の不明確さ」を指摘されないようにする
### (3)相続前に専門家と連携
- 相続税の非課税範囲や評価額を事前に確認
- 名義変更・寄附・使用貸借契約の整理を段階的に進める
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## 4. まとめ:宗教法人の「ため」ではなく「誰の名義か」で判断される
宗教活動の場である境内地・庫裏であっても、
**土地・建物が個人所有である限り、相続時には課税対象**となります。
非課税とされるのは、宗教法人自体が所有し、宗教目的に直接供している場合のみです。
信仰と生活の場が一体化している寺院だからこそ、
「信仰の場」と「個人資産」の線引きを明確にしておくことが、次世代への安心につながります。
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【この記事を書いた人】
小林 匠|税理士/CFP®/一級FP技能士
宗教法人・寺院・神社の税務を専門とし、「信仰と経営の両立」を支援。
境内整備・財産管理・相続対策を通じて、次世代に安心して引き継ぐための仕組みづくりをサポートしています。


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