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税理士事務所
防衛特別法人税」は“隠れた増税”か?
~収益事業を行う宗教法人が押さえておくべき新税制の実務ポイント~
令和8年4月1日以後に開始する事業年度から、新たに**「防衛特別法人税」**が導入されます。
国税庁はすでに申告書の新様式を発表し、法人税の別表一は「3枚構成」に変更。
税額が**0円であっても申告義務がある**点が大きな特徴です。
本税は防衛費増額の財源を確保するための目的税ですが、実質的には**法人課税の上乗せ**であり、宗教法人を含む多くの法人に新たな実務対応が求められます。
本記事では、**収益事業を行う宗教法人**の視点から、
「どこまで課税されるのか」「何を準備すべきか」を整理します。
---
## 1.対象は「法人税の納税義務があるすべての法人」
防衛特別法人税の対象は、**法人税の納税義務を負うすべての法人**です。
つまり、宗教法人であっても、**収益事業を行っている場合には課税対象**となります。
税額計算は次のように定められています:
> **(基準法人税額 − 年500万円) × 税率4%**
ここでいう「基準法人税額」とは、所得税額控除や外国税額控除などを適用する前の法人税額を指します。
つまり、**法人税の計算前段階の金額に対して課される**点がポイントです。
基準法人税額が年500万円以下であれば非課税となりますが、
これはおおよそ「所得2,400万円以下」の法人に相当。
中堅~大規模の宗教法人で収益事業が安定している場合、実質的に新税負担が発生する見込みです。
---
## 2.「隠れた増税」と言われる理由
防衛特別法人税は“期間限定の特別税”と説明されていますが、
**現時点では終了時期が明示されていません。**
つまり、恒久化の可能性が高いのが実情です。
法人税率の引き上げではなく“別建ての新税”として設けられた背景には、
「増税感を和らげたい」という政治的配慮が見えます。
しかし、納税者側から見れば**実質的な税負担増**であることに変わりありません。
特に宗教法人の場合、収益事業による利益は本来の宗教活動とは区別され、
法人税・地方法人税の課税対象となっています。
そこに防衛特別法人税が加わることで、
**“三重課税構造”**(法人税+地方法人税+防衛特別法人税)が生まれることになります。
---
## 3.申告書新様式のポイントと実務対応
国税庁が2025年5月に公表した新様式では、法人税の別表一が以下のように変更されます。
| 構成 | 内容 |
|------|------|
| 一枚目 | 基本情報・法人税額の集計 |
| 次葉一 | 防衛特別法人税の計算欄(新設) |
| 次葉二 | 法人税・地方法人税の計算欄(従来部分) |
防衛特別法人税の税額が0円であっても、**「0」と記載して申告する義務**があります。
このため、収益事業を行っている宗教法人は、法人税が発生していなくても**申告漏れに注意**が必要です。
また、令和9年4月以降は**中間申告**にも防衛特別法人税が加わるため、
年2回の申告スケジュールを見直す必要があります。
申告書の提出期限は、他の法人税と同様に
> **事業年度終了日の翌日から2カ月以内。**
延長申請を行う場合も、別表一の3枚構成での提出が必要です。
---
## 4.宗教法人が今から準備すべき3つの対応
### (1)税務システム・様式の更新確認
市販の会計・申告ソフトが新様式に対応する時期を確認し、
早めにアップデートを行いましょう。
特に別表一次葉の追加により、**法人税の電子申告データ形式(e-Tax)も変更**されます。
### (2)税務区分の整理
宗教活動と収益事業の経理区分が曖昧な法人は要注意。
防衛特別法人税は「法人税の課税所得」に基づくため、
区分が不明確だと**課税判定を誤るリスク**があります。
宗教法人の典型的な収益事業には、
駐車場貸付、出版・物販、不動産賃貸などがあります。
これらが本税の対象となるか、**顧問税理士と早期に確認**しておきましょう。
### (3)将来の税負担シミュレーション
例えば基準法人税額が1,500万円の法人では、
(1,500万円−500万円)×4%=**40万円の追加負担**です。
複数の収益事業を展開している宗教法人では、累積効果が無視できません。
今後の財政運営に反映することが大切です。
---
## 5.防衛特別法人税をどう捉えるか
防衛特別法人税は、単なる「新しい税」ではなく、
**法人課税全体の構造変化の象徴**とも言えます。
税収の偏りを是正するため、今後は「課税ベースの拡大」や
「非営利法人への課税見直し」も議論される可能性があります。
宗教法人にとっても、“税制上の特例は永久ではない”という現実を
改めて意識する契機となるでしょう。
---
## おわりに
防衛特別法人税の導入は、宗教法人にとっても“見過ごせない制度改正”です。
収益事業を持つ以上、**一般法人と同じ納税義務**が課されます。
「うちは宗教法人だから関係ない」と思っていると、思わぬ申告漏れにつながりかねません。
制度の成熟期にある今こそ、
・経理の透明性
・税務リスクの管理
・将来を見据えた財務設計
を整えることが、宗教法人の信頼性を高める第一歩です。
> **“信頼される法人”は、税務対応から始まる。**
> 防衛特別法人税の対応を通じて、宗教法人経営の足元を見直す機会にしましょう。
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