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税理士事務所

 6. 宗教法人の収益事業と法人税・地方法人税のポイント


6-1 34種類の収益事業と課税ラインを“見極める”具体判定事例
宗教法人が収益事業を行う場合、まず最初に理解すべきは、所得税法上「収益事業」として課税される34種類の事業カテゴリーです。これらの事業に該当するか否かが、法人税・地方法人税の納税義務の有無を左右します。単に売上が発生しているから収益事業とは限らず、継続的かつ反復的に営利目的で行われる事業であることが必要です。国税庁令和7年版パンフレットに典型例が詳細に示されており、宗教法人の現場では具体的な事例での判断が重要です。
例えば、「物品販売業」に該当するかどうかは、お守りやおみくじの販促形態で分かれます。純粋な喜捨金としての授受とみなされる場合は課税対象外ですが、通常の売価設定での頒布は収益事業に該当します。同様に、印刷業や出版業に含まれると判断されるケースでは、教典や暦、写真集の頒布も課税対象です。これらは取引の対価性の有無や価格設定、販売形態が判断基準となります。
不動産貸付業も特有の判断が必要です。墳墓地や墓地の永代使用料は宗教活動の一環で非課税ですが、その他不動産の貸付収入は収益事業とされる場合が多いため注意が必要です。境内地の席貸しについても、単なる本来の宗教活動の場の提供であれば非課税ですが、娯楽・飲食・会議用施設の貸付は課税針対象の収益事業に該当します。
技芸教授業については、茶道や書道、生花教室などの運営が含まれます。対価を受ける教授活動で定期的に行われる場合は法人税の課税対象となるため、これらの事業形態を開始する場合は改めて税務判断を仰ぐべきです。
収益事業該当の判断は、多角的に要素を検討しないと誤解や課税漏れ、過剰申告を招くおそれがあります。したがって、税理士等専門家と連携し、各事業の具体的な性質、対価の詳細、継続性を分析して判定することが必須です。宗教法人の税務担当者は、国税庁の解説と自主的な判例研究、専門助言を駆使し、正確な事業区分を実務として確立してください。

6-2 経理区分は絶対条件!適切な帳簿管理・配賦基準をプロが解説
収益事業で生じた所得に対して法人税等が課されるため、経理上は収益事業と非収益事業(宗教本来の活動)を明確に区分することが絶対の要件です。区分経理が不十分だと、法人税はもとより消費税の申告においても誤りを招きやすく、税務調査時には厳しい指摘を受けます。税務リスク回避の要であり、透明かつ正確な帳簿作成体制が宗教法人の信用維持に直結します。
具体的には、収益事業ごと、非収益事業ごとに売上、仕入、経費、資産、負債を分けて帳簿に計上することが求められます。これには、銀行口座の分別管理、費用・経費の配賦基準を定めた法人内規則の整備も含まれます。共通費用の按分方法としては、例えば実使用面積比率、従業員数、時間配分、売上比率など合理的かつ客観的な基準の選定及び運用が欠かせません。
また、特に固定資産については、収益事業用資産と宗教活動用資産で区分し、減価償却費を適切に配賦することが求められます。これにより、収益事業の所得計算が正確に行えます。区分経理が困難でケースごとに一律の按分が適用される場合もありますが、その理由と方法は必ず文書で証拠化し税務署に説明できる状態にしておく必要があります。
新たに収益事業を開始する宗教法人は、この区分経理体制の整備が早急でありかつ優先事項です。経理担当者は会計ソフトの利用も検討しつつ、収益事業の開始から記帳様式・配賦方法・内部管理手続きに至るまでマニュアル化して業務標準化を図るべきです。
なお、収益事業の経理と非収益事業の経理を混同すると、税務署からは収益事業の利益過少申告と認定され、追徴課税の対象となります。調査における最重要指摘事項となるため、これを防ぐための継続的フォローアップや内部監査も検討しましょう。税理士による定期的なチェックを受けることもリスク管理対策として推奨します。

6-3 収益事業開始届出から青色申告まで~必要な税務届出一括ガイド
新たに収益事業を開始した宗教法人は、税務署へ収益事業開始届出書を開始後2か月以内に提出することが法律で義務付けられています。この届出は、収益事業の存在を税務署に認知させ、適切な課税対象として管理を受けるための重要な手続きです。届出を怠ると申告漏れや加算税が課されるリスクがあるため、期限管理を厳守してください。
収益事業開始の届出に併せて、節税と税務管理効率化に効果的な青色申告の承認申請の提出も強く推奨されます。青色申告法人となると、欠損金の繰越控除(最長10年間)や特別償却・損金算入などの特典が利用可能となり、特に収益事業開始当初の負担軽減に資します。申請期限は通常、事業開始日の前日または開始日から3か月以内(初年度の場合)となっていますので注意が必要です。
加えて、帳簿の保存や資産評価方法について選択がある場合、棚卸資産評価方法の届出も提出しましょう。届出がない場合は法定の評価方法が適用され、法人によっては不利になることもあります。これら届出・申請はe-Taxによりオンラインで可能なため、操作に不慣れな場合は早期に準備を開始し、税理士の支援を受けることをお勧めします。
届出後は、事業年度ごとに所得を確定申告し納税義務を履行する必要があります。法人税確定申告書には収益事業と非収益事業の区分経理を示す貸借対照表・損益計算書等の添付も義務付けられています。税額や所得が変動した場合、適用可能な租税特別措置の適用額明細書の提出も必要です。
最後に、収益事業を行わない宗教法人でも年間収入が8,000万円を超える場合、損益計算書等の提出が義務付けられる点も忘れずに把握し、経理体制の整備を進めてください。
このように収益事業の開始は税務管理の大幅な変化を伴うため、開始届出から青色申告承認申請の提出、帳簿整備までワンストップで専門家と連携した体制構築を強く推奨します。これにより税務上のトラブルを未然に回避し、宗教法人の健全な事業運営基盤を確立できます。


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