クレメンティア
税理士事務所
宗教法人の土地売却と法人税|収益事業の固定資産の処分益・処分損はどう扱う?
「寺院で所有している土地を売却したら、法人税はかかるのでしょうか?」
住職の方から、このようなご相談を受けることがあります。
特に、その土地を駐車場などの収益事業に長年使用していた場合には、単純に「宗教法人の土地だから法人税は関係ない」と考えることはできません。
一方で、長期間保有していた土地などを売却した場合には、法人税について特別な取扱いがあります。
さらに注意したいのが、売却益が出る土地と売却損が出る土地を同じ年度に売却する場合です。
「利益が出る土地は収益事業から外して、損失が出る土地だけ収益事業の損金にできないか?」
このような処理ができるのか、今回は具体例を使って分かりやすく解説します。
## 宗教法人は「すべての所得」に法人税がかかるわけではない
まず、宗教法人の法人税について基本的なところを確認しておきましょう。
宗教法人は、法人税法上の「公益法人等」に該当します。
公益法人等については、一般の株式会社などとは異なり、原則として「収益事業」から生じた所得について法人税が課税されます。
つまり、
「宗教法人だから法人税は一切かからない」
ということでもありません。
反対に、
「宗教法人が受け取る収入にはすべて法人税がかかる」
ということでもありません。
宗教法人が行う活動のうち、法人税法上の収益事業に該当するものについて、その所得が法人税の課税対象となります。
例えば、駐車場業を行っている場合には、その駐車場事業から生じる所得について法人税の申告・納税を検討する必要があります。
## 収益事業に使っていた土地を売却するとどうなる?
では、宗教法人が収益事業に使用していた土地を売却した場合はどうでしょうか。
ここで重要になるのが、「収益事業に付随して行われる行為」という考え方です。
法人税法では、収益事業には、その性質上、その収益事業に付随して行われる行為も含まれるとされています。
さらに、法人税基本通達15-1-6では、公益法人等が収益事業に属する固定資産などを処分する行為も、「収益事業に付随して行われる行為」に含まれるとされています。
そのため、収益事業に使用していた土地を売却した場合、原則として、その売却によって生じた利益や損失も収益事業の損益として扱うことになります。
つまり、駐車場として使用していた土地を売却して利益が出れば、原則として、その利益も収益事業の所得に含まれることになります。
## ただし、長期間保有していた土地には特別な取扱いがある
ここからが今回の重要なポイントです。
法人税基本通達15-2-10では、公益法人等が収益事業に属する固定資産を処分した場合でも、一定の処分損益については、収益事業の損益に含めないことができるとされています。
その一つが、
「相当期間にわたり固定資産として保有していた土地、建物、構築物などを処分した場合」
です。
この「相当期間」は、おおむね10年以上が一つの目安とされています。
例えば、寺院が所有する土地を10年以上にわたって駐車場として使用し、その土地を売却したとします。
この場合、一定の要件を満たせば、その土地の売却益を収益事業の所得に含めないという取扱いを選択することができます。
長期間保有した固定資産の売却によって生じた利益は、単なる駐車場事業の付随的な収入とはいいにくいことから、このような取扱いが設けられていると考えられます。
## 「売却益は除外、売却損は経費」はできる?
では、今回のテーマである具体的なケースを考えてみましょう。
宗教法人甲寺では、本堂の改修工事資金を準備するため、長年駐車場として使用してきたA土地とB土地を売却することにしました。
どちらも10年以上にわたって保有しています。
ところが、売却すると、
・A土地 → 譲渡益が発生する
・B土地 → 譲渡損が発生する
という見込みです。
そこで、
「A土地の譲渡益は収益事業の収益に入れない」
一方で、
「B土地の譲渡損は収益事業の損金に入れたい」
と考えたとします。
このような処理は認められるのでしょうか。
## 結論:同じ事業年度なら、片方だけを選ぶことはできない
結論からいうと、同じ事業年度にA土地とB土地の両方を売却した場合、
「B土地の売却損だけを収益事業の損金に算入し、A土地の売却益は収益事業に含めない」
という処理はできないと考えられます。
その理由は、法人税基本通達15-2-10に、
「当該事業年度において2以上の固定資産の処分があるときは、その全てに係る損益とする」
という取扱いが定められているためです。
つまり、土地ごとに都合のよい処理を選択することはできません。
同じ事業年度に処分した対象資産については、その処分損益をまとめて考える必要があります。
## A土地が利益、B土地が損失の場合
例えば、次のようなケースです。
A土地の売却益:2,000万円
B土地の売却損:1,200万円
この場合、
2,000万円 - 1,200万円 = 800万円
となり、2つの土地を通算すると800万円の利益になります。
この場合、
「A土地の2,000万円の利益は除外する」
「B土地の1,200万円の損失だけは収益事業に入れる」
という処理はできません。
A土地とB土地の処分損益を合わせて、その事業年度における処分損益として判断することになります。
## 逆に、通算すると損失になる場合は?
では、反対に、
A土地の売却益:1,000万円
B土地の売却損:1,500万円
だったとしましょう。
この場合、
1,000万円 - 1,500万円 = △500万円
となり、2つの土地を通算すると500万円の損失になります。
この場合には、その処分損益を収益事業の損益に含めることができます。
一方で、収益事業の損益に含めないという選択も可能と考えられます。
重要なのは、土地ごとに判断するのではなく、同一事業年度に処分した対象資産について、全体の損益を見て判断するということです。
## 売却する年度を分けるとどうなる?
ここは、土地売却を計画するうえで非常に重要なポイントです。
例えば、
【当期】
A土地を売却 → 2,000万円の売却益
【翌期】
B土地を売却 → 1,200万円の売却損
というケースを考えてみます。
この場合、A土地については当期の処分損益として判断し、収益事業の損益に含めないことができます。
そして翌期にB土地を売却した場合には、翌期の処分損益として判断することになります。
つまり、法人税基本通達15-2-10の取扱いは、「土地1筆ごとに自由に選べる」というものではありません。
「事業年度ごとに選択する」
という点が重要です。
同じ年度に複数の固定資産を処分した場合には、それらをまとめて判断します。
一方、処分する年度が異なれば、それぞれの年度で判断することになります。
## 本堂の改修資金のために土地を売却するときの注意点
今回のケースでは、土地の売却目的が「本堂の改修工事資金の捻出」です。
寺院にとって、本堂の改修は非常に大きな事業になることがあります。
そのため、長年所有してきた土地を売却して資金を確保することも、現実的な選択肢の一つでしょう。
ただし、土地を売却するときには、
「いくらで売れるのか」
だけではなく、
「法人税上、その売却損益をどのように扱うのか」
まで事前に検討しておくことが重要です。
特に複数の土地を売却する場合には、売却時期によって税務上の取扱いが変わる可能性があります。
土地の売却契約を進める前に、税理士へ相談しておくと安心です。
## 「10年以上保有していれば必ず対象」ではない
なお、「10年以上持っている土地なら、必ず売却益を収益事業から外せる」という意味ではありません。
法人税基本通達15-2-10の対象となるかどうかについては、その土地がどのような資産であったのか、どの事業に属していたのか、どの程度の期間保有していたのかなど、個々の事情を確認する必要があります。
また、土地の売却損益を収益事業の損益に含めるかどうかを判断するときには、同じ事業年度に他の固定資産を処分していないか、といった点も確認する必要があります。
「10年経ったから大丈夫」と年数だけで判断するのではなく、法人税基本通達の要件に照らして個別に検討することが大切です。
## まとめ|土地売却は「売却益」だけでなく「売却損」も含めて考える
宗教法人が収益事業に使用している土地などの固定資産を売却した場合、その売却損益は原則として収益事業の損益になります。
一方で、相当期間にわたり固定資産として保有していた土地などについては、一定の条件のもとで、その処分損益を収益事業の損益に含めないことができる取扱いがあります。
ここで特に注意したいのが、
「売却益は収益事業から外すけれど、売却損は収益事業の経費にする」
という処理です。
同一事業年度に複数の対象資産を処分した場合には、土地ごとに都合のよい処理を選ぶことはできません。
その事業年度に処分した対象資産の損益全体を見て判断する必要があります。
一方で、売却する年度が異なれば、それぞれの事業年度において判断することが可能です。
寺院の土地売却では、単に「いくらで売れるか」だけでなく、
「いつ売るのか」
「他の土地も同じ年度に売るのか」
「その土地は収益事業に属するのか」
「法人税上、処分損益をどのように扱うのか」
まで考えておくことが大切です。
本堂の改修や境内整備などのためにまとまった資金を確保する目的で土地を売却する場合には、売却前の税務検討が特に重要になります。
土地の売却を具体的に検討されている住職の方は、契約を進める前に、所有期間や収益事業との関係、売却予定時期などを整理して、税理士に相談することをおすすめします。
Instagram
インスタグラム
Related
関連記事
-
2025.09.10大阪市の宗教法人が収益事業を始める前に知っておきたい税務リスクとは
-
2025.11.30宗教法人の駐車場と印紙税──住職の皆さまが誤解しやすいポイントを専門家が整理します
-
2025.12.13国税庁が「AI活用の税務調査」を初公表――宗教法人がいま押さえるべき“見られ方”と実務対策
-
2025.12.12大阪市の宗教法人が知っておきたい収益事業別の課税ポイント一覧
-
2025.12.05宗教法人にも影響する「税務調査手続きの法令化」―帳簿の提示・提出義務とその留意点
-
2025.12.04宗教法人が大阪市でクラウドファンディングを活用する際の税務知識
-
2025.12.02語学教室市場と宗教法人の可能性
-
2025.12.01お守りに消費税はかからない?―宗教法人の収益と税務の基本
-
2025.11.28大阪市宗教法人の収益事業における「役員報酬」の適正化とは
-
2025.11.08宗教法人の「収益事業」でも課税されないケースとは?──身体障害者等の生活保護に寄与する事業の特例
-
2025.09.14宗教法人の収益事業、税務署の視点は?大阪市の実例から読み解く
-
2026.01.09宗教法人の「収益事業」認定と法人税――駐車場・不動産貸付業は非課税にならない?
-
2025.10.06大阪市の宗教法人向け|収益事業開始前にやるべき会計整備3ステップ
-
2026.01.15税理士が解説|大阪市 宗教法人の「収益事業の再構築」を行うために
-
2025.09.256. 宗教法人の収益事業と法人税・地方法人税のポイント
-
2026.02.02大阪市の宗教法人が直面する「収益事業の失敗事例」と税務改善策
-
2025.09.181.収益事業を行う宗教法人の税務顧問が教える基礎知識
-
2025.10.12税理士が見る大阪市宗教法人のガバナンス改革と収益事業の関係性
-
2025.11.14宗教法人の収益事業と法人税|大阪市の税理士が伝える「節税の限界」
-
2025.10.27収益事業を展開する宗教法人が大阪市で不動産賃貸を活用する方法
-
2026.08.11無利息でお金を貸しても大丈夫?宗教法人から公益法人への貸付けを税理士が解説
-
2025.10.11宗教法人の収益事業にかかる法人税率──「公益法人等」の分類でここまで違う!