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税理士事務所

宗教法人の収益事業にかかる法人税率──「公益法人等」の分類でここまで違う!

宗教法人として収益事業を行っている場合、「公益法人だから税率は低いはず」と思われる方も多いですが──実は、**同じ“公益法人等”でも区分によって法人税率が異なります。**
宗教法人は「その他の公益法人等」に該当し、一般社団法人やNPO法人とは扱いが違うのです。
今回は、収益事業を行う宗教法人の立場から、公益法人等に適用される法人税率の整理と実務上の注意点をまとめます。
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## 1. まずは整理──公益法人等の3つの分類
法人税法上、「公益法人等」は次の3つに分類され、それぞれ税率が異なります。
| 区分 | 主な法人 | 税率構造(年800万円以下/超) |
|------|-----------|--------------------------------|
| (1) 一般社団法人等 | 公益社団法人・公益財団法人、非営利型一般社団・一般財団法人 | 15%/23.2% |
| (2) みなし公益法人等 | NPO法人、地縁団体、管理組合法人など8法人 | 15%/23.2% |
| (3) その他の公益法人等 | 宗教法人・学校法人・社会福祉法人など | 15%/19% |
宗教法人はこのうち**「その他の公益法人等」**に分類されます。
つまり、収益事業を行っている場合、所得金額によって上記の税率が適用されます。
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## 2. 税率の根拠はどこにある?──複数の法律を横断
法人税率の規定は、実は1つの法律にまとまっていません。
主な根拠は次の3つです。
- **法人税法第66条**(基本税率の定め)
- **法人税法施行令第5条1項3号**(収益事業の定義)
- **租税特別措置法第42条の3の2**(中小法人等・公益法人等の軽減税率)
そのため、条文だけを見ると非常に複雑に見えますが、実務的には「どの区分に属するか」を把握すれば整理がつきます。
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## 3. 宗教法人に適用される税率──15%と19%の2段階
宗教法人は「その他の公益法人等」に該当するため、
以下の税率が適用されます。
- 収益事業による所得 **年800万円以下**:15%
- 収益事業による所得 **年800万円超**:19%
他の公益法人(一般社団・NPOなど)が上限23.2%であるのに対し、
宗教法人などの「その他の公益法人等」は上限が**19%**にとどまる点が特徴です。
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## 4. よくある誤解──「収益事業=全額課税」ではない
宗教法人が行う活動のうち、
**宗教本来の行為(法要・布施・護持会費など)**は非課税ですが、
**物品販売・駐車場・貸会場などの継続的営利事業**は「収益事業」として課税対象になります。
ただし、課税対象はその「収益事業部分」だけであり、宗教活動や公益活動全体に課税されるわけではありません。
ここを正しく区分しておくことが、税務調査での信頼を守るポイントです。
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## 5. 実務上のポイント──「区分経理」と「意思決定記録」
宗教法人の収益事業は、宗教本来の活動と混在しやすいため、
税務上は次の2つを徹底することが重要です。
1. **区分経理を明確に**
 収益事業に関する収入・経費・資産を明確に分ける(別口座・別帳簿が理想)。
2. **責任役員会での議事録を残す**
 収益事業の実施・内容・会計処理方針を明文化し、法人全体の意思決定として記録しておく。
これらを整備することで、税務署から「実態が不明」とされるリスクを避けられます。
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## 6. まとめ──「公益性」と「課税対象」を整理しておく
公益法人等といえども、**収益を伴う活動**は課税対象。
ただし、宗教法人のように「その他の公益法人等」に該当する場合、
税率は比較的低く設定されています。
👉 **年800万円以下の所得は15%、超過分は19%。**
この範囲を把握し、適切な区分経理を行うことが、信頼される宗教法人経営の第一歩です。
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【この記事を書いた人】
小林 匠|税理士/CFP®/キャッシュフローコーチ®
宗教法人・医療法人・社会福祉法人など公益法人の税務を専門とし、
「理念と会計の両立」を支援。税金を“義務”から“信頼の証”へ変える伴走を行っています。


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