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税理士事務所
保育士が幼稚園教諭免許を取るための学費──宗教法人負担でも課税されない?認定こども園における正しい取扱いとは
「保育士に幼稚園教諭免許を取ってもらいたい。でも、その費用を法人が負担したら給与扱いにならない?」
保育園から認定こども園へ移行した園では、こうした悩みが増えています。特に住職が理事長を兼ねて運営している宗教系法人では、法人の支出と個人課税の線引きが気になるところです。
今回は、**保育士が幼稚園教諭免許を取得するための費用**を法人が負担した場合の税務上の扱いについて、わかりやすく整理します。
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## 1. 背景──認定こども園では「保育教諭」が必置
幼保連携型認定こども園では、**保育教諭**(=保育士資格+幼稚園教諭免許の両方を持つ人)が必ず配置されることが法律で定められています。
しかし現場では、保育士資格しか持たない職員が多く、免許取得の促進が急務になっています。
特例制度により、保育士資格を持つ職員は大学等で**5科目8単位**を修得すれば、幼稚園教諭免許が取得可能です。
この通信制課程の学費などを法人が負担してよいのか──ここが今回の論点です。
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## 2. 結論──職務上必要な資格なら「非課税」でOK
結論から言えば、**所得税の課税対象とはならない**、つまり「給与扱いにしなくてよい」と考えられます。
根拠は「所得税基本通達36−29の2」。
> 使用者が業務遂行上の必要に基づき、職務に直接必要な免許・資格を取得させるための費用を負担する場合、その費用は課税しなくて差し支えない。
つまり、法人の運営上必要であり、個人的な資格取得ではなく「職務上の要請」であることが明確であれば、**非課税扱い**となります。
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## 3. 「非課税」と認められるための3つの条件
非課税で処理するには、次の3点を明確にしておくことが重要です。
1. **法人の業務遂行上の必要性**
例:認定こども園の運営継続のため、保育教諭の配置が義務化されている。
2. **法人の意思決定として支出されていること**
理事会や役員会で決定し、議事録に明記しておく。
3. **支給額が「適正な範囲」であること**
必要単位(5科目8単位)を取得するための授業料・通信費等に限定。
この3点を満たせば、職員・園長(役員を含む)いずれの取得費用も、課税されません。
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## 4. 注意点──個人的なキャリア目的とみなされないように
もし「個人のスキルアップ」「転職のための資格取得」など、業務と直接関係がないと判断されれば、**給与課税の対象**になります。
法人として支援する場合は、
- 業務上の必要性(法的配置基準や園運営方針)を明文化
- 「取得後は園で勤務を継続する」旨の合意書を交わす
など、**法人目的と紐づける書面整備**が望ましいです。
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## 5. まとめ:学びの支援は「人材投資」──税務リスクを防ぎつつ前向きに
認定こども園の運営には、資格の両立が求められる時代になりました。
今回のような資格取得支援は、職員の育成と園の安定運営の両立につながる施策です。
非課税の範囲を理解し、適正な手続きを踏むことで、安心して人材投資を進めることができます。
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【この記事を書いた人】
小林 匠|税理士/CFP®/一級FP技能士
宗教法人・社会福祉法人など「理念経営×税務実務」を支援。
現場感と制度理解を両立させ、信頼される法人運営の仕組みづくりをサポートしています。
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