クレメンティア
税理士事務所
「高齢者の雇用=非課税」ではない?――宗教法人が直面した「生活の保護に寄与しているもの」とは何か
宗教法人や公益法人が高齢者を積極的に雇用している場合、「福祉的な意味合いが強いのだから課税されるはずがない」と思っていませんか?
しかし、令和2年3月5日の裁決では、65歳以上の従事者が半数以上を占めていたにもかかわらず、収益事業として課税対象とされました。
この事例を通じて、「生活の保護に寄与しているもの」の本当の意味を解説します。
---
## 裁決の概要:高齢者の雇用でも「収益事業」に該当?
この事例は、宗教法人が請け負った公の施設管理事業において、従事者の半数以上が65歳以上の高齢者(=特定従事者)であったにもかかわらず、「生活の保護に寄与しているもの」とは認められなかったため、法人税の課税対象とされたものです。
請求人は、「高齢者を多く雇用している社会的貢献性の高い事業なのだから、収益事業に当たらない」と主張しましたが、税務当局の判断は以下のとおりでした。
---
## 「生活の保護に寄与」とは何か?―数字で見る現実
法人税法施行令第5条第2項第2号における「生活の保護に寄与しているもの」と認められるには、単に高齢者を雇用しているだけでは不十分です。
ポイントは、「**剰余金の処分可能額の相当部分を、高齢者に給与として還元しているかどうか**」です。
つまり、以下の式で算出される割合が一定基準を満たしている必要があります:
### 剰余金等の処分可能額 =
税引前利益(正味財産増減額)
+ 高齢者への給与
+ 高齢者以外への人件費
このうち、「高齢者への給与の割合」が十分に高くなければ、「生活の保護に寄与している」とは認められません。
今回のケースでは、この割合が**過半数に満たなかった**ため、非課税対象とはされませんでした。
---
## 宗教法人の主張が認められなかった理由
請求人側は、「事業の公益性」や「高齢者の社会参加機会の提供」を強調しましたが、以下の点で判断が覆されました:
- 管理業務の契約内容が明確に**請負契約の形式**であったこと
- 管理行為と本来の宗教活動との間に**直接の関連がないこと**
- 給与支給の実態が、特定従事者に対して**十分に分配されていなかったこと**
このため、たとえ高齢者を多く雇用していても、**税務上は「収益事業たる請負業」**として課税対象となったのです。
---
## 宗教法人が見直すべきポイント
この裁決は、宗教法人や公益法人が「高齢者の雇用=非課税」と短絡的に考えることの危険性を示しています。今後のリスク管理のためには:
- 【1】剰余金の分配状況を数値で把握・記録しておく
- 【2】給与体系や雇用割合の見直しを検討
- 【3】業務内容と宗教活動の一体性を意識した設計を行う
- 【4】契約形態(請負・委託など)の法的整理を丁寧に行う
---
## まとめ:社会的意義だけでは“非課税”は認められない
宗教法人の公益性や社会貢献は、社会的には評価されるべきものです。
しかし税務の世界では、「理念」ではなく「実態」と「数値」によって判断されます。
今後、宗教法人が社会課題(高齢者雇用・地域貢献)に取り組む際には、その**活動の構造と税務上の整理**を明確にし、必要に応じて専門家の支援を受けることが重要です。
「善意ある事業」こそ、「戦略的なガバナンス」が求められる時代に入っているのかもしれません。
Instagram
インスタグラム
Related
関連記事
-
2025.09.10大阪市の宗教法人が収益事業を始める前に知っておきたい税務リスクとは
-
2025.11.28大阪市宗教法人の収益事業における「役員報酬」の適正化とは
-
2025.12.12大阪市の宗教法人が知っておきたい収益事業別の課税ポイント一覧
-
2025.12.05宗教法人にも影響する「税務調査手続きの法令化」―帳簿の提示・提出義務とその留意点
-
2025.12.04宗教法人が大阪市でクラウドファンディングを活用する際の税務知識
-
2025.12.02語学教室市場と宗教法人の可能性
-
2025.12.01お守りに消費税はかからない?―宗教法人の収益と税務の基本
-
2025.11.30宗教法人の駐車場と印紙税──住職の皆さまが誤解しやすいポイントを専門家が整理します
-
2025.11.20宗教法人×不動産活用|大阪市で進む資産運用と税務の最適解
-
2025.09.14宗教法人の収益事業、税務署の視点は?大阪市の実例から読み解く
-
2025.10.30防衛特別法人税」は“隠れた増税”か? ~収益事業を行う宗教法人が押さえておくべき新税制の実務ポイント~
-
2026.01.09宗教法人の「収益事業」認定と法人税――駐車場・不動産貸付業は非課税にならない?
-
2025.10.27収益事業を展開する宗教法人が大阪市で不動産賃貸を活用する方法
-
2025.09.256. 宗教法人の収益事業と法人税・地方法人税のポイント
-
2026.01.15税理士が解説|大阪市 宗教法人の「収益事業の再構築」を行うために
-
2025.09.181.収益事業を行う宗教法人の税務顧問が教える基礎知識
-
2026.08.10宗教法人の土地売却と法人税|収益事業の固定資産の処分益・処分損はどう扱う?
-
2025.10.12税理士が見る大阪市宗教法人のガバナンス改革と収益事業の関係性
-
2025.11.14宗教法人の収益事業と法人税|大阪市の税理士が伝える「節税の限界」
-
2026.08.13収益事業がなくても税務署への提出が必要?公益法人等の収支計算書を税理士が解説
-
2025.10.11宗教法人の収益事業にかかる法人税率──「公益法人等」の分類でここまで違う!