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税理士事務所

 「娘ではないX」から始まった税務調査──宗教法人も他人事ではない税務のリスク

国税当局の未公表調査事例には、思わず「そこから!?」と驚くような端緒で発覚するケースがあります。今回は、経費の水増しや給与を外注費に仮装していた事例。宗教法人に直接の課税はないとはいえ、関連事業や人件費処理、外注契約などの取り扱いで似たようなリスクが潜んでいます。住職・宗教法人代表の立場から、このニュースをどう受け止め、どう備えるべきかを考察します。
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## 「娘じゃないだろう」から始まった不正発覚
今回の事例は、清掃や修繕などを行う個人事業者の税務調査。きっかけは、申告に訪れた「娘と名乗るX」が、どう見ても娘には見えないという内部担当者の違和感からでした。
不審に思った調査官が調査を進めたところ、
- 実際はXが従業員であるにもかかわらず給与支払記録がない
- 複数のバージョンの収支内訳書が存在
- 外注費と記載されたメモが出てくる
といった状況から、**給与を外注費として処理し、所得税と消費税の軽減を図っていた**事実が発覚しました。

## 宗教法人も「人件費」の扱いに注意
宗教法人は、宗教活動に関わる部分では課税が免除されていますが、たとえば以下のようなケースでは課税の対象となります:
- 境内地を駐車場として貸している
- 法要の外部受託(例えば他寺院や個人宅での法事等)
- 売店・授与品の販売による収益
- 建物の管理を第三者に業務委託している場合
このような**収益事業や外注との関係**において、人件費と外注費の線引きが曖昧だと、今回のような「科目仮装」と見なされるリスクが生じます。
特に、身内や関係者を手伝いとして雇う場合、「給与」か「外注」かの区別が曖昧なまま処理している法人も少なくありません。

## この事例から得られる3つの教訓
### ①「身内だから」は通じない
親族や信徒が協力者である場合も、**実態に応じた契約書・給与台帳・振込記録**を整備し、形式と実態を一致させることが大切です。
### ② 経費の処理は常に“第三者に説明できるか”でチェック
たとえ故意でなくとも、収支内訳書の不一致や不明瞭な処理は「意図的な仮装」と疑われる要因になります。宗教法人会計でも、帳簿と裏づけ資料の整合性が求められます。
### ③ 税務調査の端緒は思わぬところから
今回のように、ちょっとした違和感が調査のきっかけになります。**「うちは大丈夫」ではなく、「万一調査が来たら説明できる状態か?」の視点で自己点検**しておきましょう。
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【まとめ】
宗教法人は非課税だから関係ない──そんな安心感が、思わぬところでリスクになることがあります。収益事業や人件費処理、外注契約といった「課税対象となり得る部分」について、今一度見直してみてください。
「信頼される宗教法人経営」は、**見えない部分にこそ誠実さを宿すこと**が大切です。形式よりも中身を整えることで、安心と信頼を築いていきましょう。

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