クレメンティア
税理士事務所
宗教法人が他の法人にお金を貸すときの注意点──「善意の支援」でも税務上の線引きはシビアです
地域の幼稚園や学校を支援したい──宗教法人として当然の思いかもしれません。
しかし、宗教法人が学校法人など他の法人に資金を貸す場合、「目的は善意でも、税務上は収益事業」と判断されることがあります。今回は、宗教法人と学校法人の関係が近いケース(親子関係など)で特に注意すべき、貸付けと利息の取り扱いについて整理します。
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## 1. 貸付け自体は問題なし。ただし「手続き」と「形式」が重要
宗教法人が学校法人に資金を貸すこと自体は、**宗教法人の目的に反しない**とされています。
ただし注意すべきは「規模」と「意思決定の手続き」です。
多額の貸付けは日常業務ではなく、**住職一人の判断で行うべきものではありません**。
責任役員会(檀徒総代などを含む)で正式に議決を経ておくことが不可欠です。
このプロセスを経ないと、後に「代表者の私的判断」とみなされ、会計処理上や法的責任の問題を招くおそれがあります。
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## 2. 税務上は「収益事業」に該当──利息収入は課税対象
宗教法人が継続的に貸付けを行う場合、**法人税法施行令5条1項3号**により「金銭貸付業」として**収益事業**に該当します。
そのため、受け取る利息については**法人税の課税対象**となり、申告義務が発生します。
「学校法人への支援だから公益性があるのでは?」という疑問もありますが、
税法上は**取引の外形(=金銭の貸付)で判定**されるため、目的の公益性は考慮されません。
つまり、「善意」や「社会貢献」であっても、形式上は課税対象という点に注意が必要です。
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## 3. 無利息・低利貸付の落とし穴──「寄附金」とみなされるリスク
もし無利息や極端に低い利率で貸し付けた場合、
税務上は「本来受け取るべき利息相当額があった」とみなされ、
その分を学校法人への**寄附金支出**として扱われます(法人税法22条2項・37条7項)。
つまり、利息を取らなくても「収益があった」とされ、
その金額を基に法人税の課税関係が生じるということです。
また、学校法人側では、その“免除された利息分”が**受贈益(利益)**として認識される点も見落とせません。
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## 4. 学校法人側の処理──支払利息は経費に、建設期間中は資産に
学校法人が支払う利息は、幼稚園事業の費用として経費算入できます。
ただし、建物建設中に発生した利息は、**建物の取得原価に含める**ことも可能です。
完成後に使用開始した時点から、減価償却により費用化されていく形となります。
一方、無利息で借りた場合は利息費用が発生しないため、
結果的に損益には影響しません(支払免除益と費用が相殺されるため)。
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## 5. まとめ:宗教法人の資金貸付は「信頼のための手続き」と「税務判断の線引き」が鍵
宗教法人が地域の教育活動を支援することは尊い行為ですが、
**「内部決議を経る」「通常利率を設定する」「収益事業として申告する」**という3つのルールを守ることが重要です。
形式を整え、透明性を確保することで、宗教法人としての信頼を守りながら、
地域社会への貢献を持続可能な形で行うことができます。
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