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税理士事務所
「ドンブリ勘定」で済まされない時代へ——宗教法人に求められる“経理の覚醒”
近年、宗教法人をめぐる税務調査での「不正割合」が他の公益法人に比べて突出して高いことが報道されました。
「悪意はなかった」「昔からこうしていた」では済まされない現実がある中で、住職や代表者として、どのように会計・税務と向き合えばよいのか。
税理士として、また経営と現場のリアルを知る専門家として、冷静に、そして前向きに考察します。
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【なぜ今、宗教法人の経理が注目されているのか】
産経新聞の調査によると令和4年までの5年間で、全国の宗教法人のうち約2割が源泉所得税に関する「不正」と判断され、重加算税の対象となりました。
これは、学校法人(約2%)、社会福祉法人(約0.8%)と比べても極端に高い数字です。
宗教法人は公益法人等に区分され、法人税などで優遇を受けられる一方で、会計帳簿の作成や収支計算書の作成・公開についての法的義務が緩やかです。
特に年収8,000万円以下の宗教法人では、収支計算書の作成すら義務付けられていないのが現状です。
この「制度のスキマ」と「慣習的な運営」が重なり、税務リスクが顕在化しやすい構造になっています。
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【“悪意がなければ大丈夫”は通用しない】
産経新聞によれば、取材に応じた住職は、父親から受け継いだやり方を40年以上も踏襲してきたと語っています。
お寺の口座と個人口座を分けず、すべて一緒に管理していた結果、税務上では「私的な給与」と認定され、約1.5億円の源泉徴収漏れ、7,800万円の追徴税が課されました。
ここで重要なのは、「悪意があったかどうか」ではなく、「制度上どう見なされるか」が問われるという点です。
つまり、「知らなかった」では済まないということです。
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【宗教法人の“経営者意識”が今、問われている】
宗教活動が本分であるとはいえ、法人格を持ち、収入を得て運営する以上は、住職・代表者には「経営者としての責任」が求められています。
現代の宗教法人にとって、以下のような経理体制の見直しは避けて通れません:
- 法人と個人のお金の分別(法人口座・個人口座の明確な使い分け)
- 収支計算書の作成と記録の保存
- 報酬や給与への源泉徴収の対応
- 税理士・会計士など専門家との連携
「うちの寺は小さいから関係ない」と思われるかもしれませんが、小規模であるほどトラブル時のダメージは大きくなります。
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【まとめ:信頼される寺の共通点】
時代は「信仰だけでなく、信頼される寺」へと変わりつつあります。
帳簿を整えることは、“見えないもの”を大切にする宗教の営みにおいても、現代社会との接点を築くための重要な要素です。また、近年増加している収益事業については、より適正な会計制度を整えてくことが望まれています。
「何から始めればいいか分からない」という住職の方は、まずは税理士など専門家に一度相談してみることをおすすめします。
大切なのは、罰を避けるためではなく、「これからの寺院経営」を守るための準備です。
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税や会計の仕組みを知ることは、「社会とつながる力」を手に入れること。
住職としての責任を果たすと同時に、安心して宗教活動に集中できる環境を、一緒に整えていきましょう。
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