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税理士事務所

 4. 宗教法人の退職手当・報酬の源泉徴収と納税管理


4-1 退職手当・謝礼金にも義務あり!源泉徴収法の適用範囲
宗教法人が退職金や謝礼金(報酬)を支払う際にも、源泉所得税の徴収義務が生じる点は必ず押さえておかなければなりません。これは一般の法人と同様、宗教法人も税法上の源泉徴収義務者となるためです。
まず退職手当に関して、勤務実績に基づき支払われる退職金等は「退職所得」として扱われます。退職金支払時には、「退職所得の受給に関する申告書」の提出を受けることが一般的で、この申告書が提出されると、勤続年数に応じた退職所得控除額を差し引いた後の課税退職所得金額に基づき源泉徴収税額を計算します。勤続年数の長さにより控除額は異なり、長期間勤務されている場合には控除額が大きくなりますので、結果的に源泉徴収額は少なくなることがあります。一方、申告書が提出されない場合や、退職所得の計算が困難な場合は、支払金額の20.42%を一律の税率とする法定の源泉徴収を行う必要があるため、申告書の提出促進が重要なポイントです。

また退職手当の源泉徴収は、退職日の翌日から10日以内に納付する義務があり、納付遅延は加算税・延滞税のリスクも伴います。宗教法人は特に長年勤務した住職や職員への退職手当支払いがあるため、早期の対応準備と申告書管理の徹底が求められます。

次に報酬・謝礼の源泉徴収についてですが、税理士報酬や講演料、作業委託報酬などは、原則として10.21%の税率で源泉徴収する必要があります。この税率は講演料などの一時的な支払いにも適用され、複数回にわたる支払いの場合でも個別に源泉徴収が義務付けられています。なお、同一人へ1回の支払いが100万円を超える部分については20.42%の税率を適用しなければならないため、高額支払い時には特に注意しましょう。
宗教法人の収益事業が拡大し、外部の専門家を起用するケースも増えています。源泉徴収を行わなかった場合には、法人と支払った個人の双方に追加課税や重加算税の対象となるおそれがあるため、支払時に必ず正確な源泉徴収を行ってください。
さらに、支払いには契約内容に基づく明確な記録を作成し、報酬の性質や支払額を適切に把握する体制を整えましょう。特に宗教法人の給与体系や支払履歴が複雑化しやすい環境では、源泉徴収の失念や誤計算が税務リスクを大きく膨らませることに繋がるため、専門家と連携してのチェック体制構築が必要です。

4-2 納期の特例活用法~支給人数10人未満で年2回納付も可能
源泉所得税の納税において、宗教法人が支払う給与や報酬の納税義務は原則として毎月の支払い分を翌月10日までに納付しなければなりません。これにより、日々の税務事務や納付業務が法人の拘束要素となっている実態もあります。
しかし、法令上、常時支給する給与等の人数が10人未満の場合には「納期の特例」制度を利用することが可能です。この特例を活用すると、給与支払分について1月から6月分までの源泉所得税を7月10日までに、7月から12月分は翌年1月20日までにまとめて納付できるため、法人の事務負担が大幅に軽減されます。これは宗教法人の小規模な運営体制で効率化を図る上、大変有用な制度です。
この納期特例を適用するためには、所轄税務署長の承認を受ける必要があり、申請は任意です。承認を得た場合は制度期間中は継続的に適用され、煩雑な月次申告手続が軽減されます。特例適用中でも、給与・報酬の支払い記録は正確に管理し、確実な源泉徴収税額控除を行い、年末調整も怠らず行う必要があります。

注意点としては、支給人員が増加し10人以上になる場合や、給与支払の実態が変わった場合には速やかに税務署に届け出て、納期特例の適用を取り止める必要があります。適用条件を満たしていない状態で制度を誤って使い続けると、納期限に遅延した扱いとなり、延滞税や加算税の原因となります。
宗教法人は特にスタッフ数が季節変動しやすい場合や、一時的に多人数を雇用するケースもあるため、常に支給人数を正確に把握し、特例適用状況の自己点検を行うことが望まれます。また、納期限が半年に一度に集約されるため、まとめて納付額が大きくなることへの資金繰り計画が必要になります。

このように納期の特例は、正しく活用すれば宗教法人の事務負担を大幅に減らし、ミスや遅延のリスクを軽減できるため、まずは少人数運営の法人であれば積極的な申請をご検討ください。

4-3 納付遅延・納付漏れによる加算税と延滞税とは【注意喚起コラム】
源泉所得税の納付遅延や漏れは、宗教法人にとって重大な税務リスクの一つです。源泉徴収そのものが行われていても、納税義務の履行が滞ると、税負担が大幅に増加することになるため、以下の法的側面とリスクを理解しておくことが欠かせません。
まず、納期限内に源泉税を納付しない場合には「延滞税」が課されます。延滞税は、納期限の翌日から納付日までの日数に応じて利率が設定されており、遅れれば遅延分に比例して増加します。この延滞税は税務署からの督促状発出後に余計に加算されることもあるため、少しの遅れでも結果的に負担が膨らみます。

次に、源泉徴収義務を怠り、そもそも税金を徴収せずに支払ってしまった場合や、源泉徴収はしたが正しく納付しなかった場合には「不納付加算税」が課されます。納付期限を過ぎた場合、通常の場合は本税の5%の加算税が課されますが、過少申告や期限後申告があり且つ税額を増加させなければならない場合は10%となる場合もあります。
加えて、悪質な脱税や隠蔽など「不正な行為」によって納付怠慢が発覚した場合は、さらに重い「重加算税」(原則として本税の35%)が課されることになります。この重加算税は法人の信頼を著しく損ね、今後の運営にも大きな悪影響を及ぼすため、宗教法人として徹底したリスク管理が必要です。

こうしたリスクを回避するためには、源泉徴収義務者として日常的に入念な管理体制を構築することが肝要です。具体的には、給与・報酬支給時の正確な源泉徴収と納付期限の厳守、納期限の前倒し納付を心がけること、また電子申告納税システム(e-Tax)の活用による納付ミス防止が有効です。
さらに、従業員数の変動に応じて「納期の特例」の適用状況を常に確認し、申請期限の遵守や手続き更新を行うことがリスク低減につながります。定期的に税理士と連携して源泉徴収漏れのチェックや内部監査を実施し、問題点の早期発見・是正を図ることをおすすめします。
最後に、もし過去に源泉所得税の納付漏れや遅延が判明した場合は、自主的な申告や修正申告を速やかに行うことで、加算税や延滞税の軽減措置が受けられる場合があります。税務署の追及を待つ前の適切な対応が、宗教法人の社会的信用と経営の安定に繋がる点をぜひご認識ください。


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