クレメンティア
税理士事務所

2. 源泉所得税の基礎知識と宗教法人の義務


2-1 宗教法人も源泉徴収義務者!給与・報酬で注意したいポイント
宗教法人は法人格を有し、その活動に対する税務は公益法人等の特性を踏まえた上で厳格に運用されます。給与や報酬の支払に関しては、一般の法人と異なる特例はなく、源泉所得税及び復興特別所得税の源泉徴収義務者に該当することをまず押さえる必要があります。
宗教法人の代表役員(住職、宮司など)や職員、外部から依頼する税理士や講師への報酬については、税法上の源泉徴収義務が発生します。特に、不動産賃貸料を含む多様な収入源を持つ場合や、スタッフが複数箇所から収入を得ているケース等では、正しい源泉徴収税率の適用や、扶養控除申告書の有無で徴収方法が変わるため、事務担当者が漏れなく把握しておくことが重要です。
具体的には、給与所得者から提出される「給与所得者の扶養控除等申告書」の有無によって「甲欄」か「乙欄」の税率を使い分けることになります。例えば、住職が1箇所のみで給与を受けている場合は主たる給与(甲欄)で計算されますが、他からも給与がある場合は2箇所目以降の給与は従たる給与(乙欄)適用となります。税務注意としては扶養控除申告書が提出されておらず乙欄適用となることを想定し、当初から給与の計算および源泉徴収の実施を怠らないことが大切です。
また、給与の支払基準や支払方法についても、税務調査で指摘されやすいポイントの一つです。給与は毎月定期的かつ一定額以上で支給されることが望ましく、出来るだけ明確かつ安定的な処理ルールを作成して、文書化しておくべきです。仮に不定期に支給したり報酬形態が曖昧であったりすると、源泉徴収漏れの指摘や税務上の争点に発展するリスクがあります。
さらに、外国人布教者への支払いなど非居住者に関する源泉徴収も対象となります。国内源泉所得に該当するかどうかの見極めや条約適用の有無によって源泉徴収税率が異なることから、専門家の助言が推奨されます。源泉徴収漏れは後の追徴課税や重加算税の対象となることもあるため、法人としての責任として厳格に管理していく必要があります。
以上のように、宗教法人は給与所得や報酬支払いにおける源泉徴収義務者としての役割を認識し、給与計算時点から正確に税額計算を行い、期限内納付を遂行する態勢をつくることが税務リスク回避の基本です。

2-2 個人の家計と宗教法人会計の明確な区分が税務トラブルを防ぐ
宗教法人の運営において、代表者や職員の個人の家計と宗教法人の会計が混同されやすいことが、税務上の最も重大なトラブル原因の一つです。国税庁の資料でも強調されている通り、この区分が曖昧だと、源泉徴収漏れ、寄附金の不正取扱い、収益事業所得の誤認等、多方面で課税関係の問題に発展します。
宗教法人の収入のうち、布施、奉納金、賽銭や寄附金などは本来的に宗教活動の対価性がない収入であり、法人の収入として厳格に区分しなければなりません。これらを代表者個人の収入として処理したり、法人の会計に個人的な収入を混入させることは認められません。逆に、住職等個人の私的支出を宗教法人の経費として処理することも不可です。
特に、住職等の給与区分については、法人からの給与として法人会計に計上し源泉徴収を行う必要があるため、支給額や支給方法は合理的かつ継続的に管理されるべきです。給与設定が不合理な場合、税務署は法人の寄附金として課税調整を行う可能性があります。
また、法人所有の資産と個人所有の資産を明確に区分し、登記簿や会計帳簿上でも区別することが重要です。例えば、住職が無償で法人所有の庫裏に居住している場合でも、その居住が職務上の必要に基づき適正であれば給与課税取扱いされませんが、個人的な利用の範囲を超える場合は経済的利益とみなされ、給与所得課税対象となります。
会計の区分に関しては、宗教法人は会計規則や法人税法に基づいて、非収益事業と収益事業の区分のみならず、役員報酬や福利厚生費の区別も適切に行い、会計監査等も受け入れる態勢を構築する必要があります。帳簿は常に整備し、税務調査時に証拠書類として提示可能な状態を維持することが、法人の社会的信頼性維持にも繋がります。
このように、個人と法人の経理区分は単なる事務的処理ではなく、税務上の根幹をなす問題であることを認識し、日常的に遵守し続けることが求められます。

2-3 現物給与・経済的利益の扱い~庫裏の提供や法衣の支給事例解説
宗教法人が支給する給与は必ずしも現金だけとは限りません。税法上、給与所得とは「金銭によらない経済的利益」も含まれます。宗教法人特有の現物給与や経済的利益の取扱いは、税務上の細かい判断が必要となるため、留意点を具体的に解説します。
まず、宗教法人の庫裏などの施設に住職等が無償または格安で居住しているケースです。原則として、職務上の必要な居住用不動産の無償提供は給与所得とみなされません。ただし、居住環境が職務上の必要性を超え、例えば個人使用が過度に認められる場合は、その差額部分が給与として課税されます。賃貸料相当額との差額が課税対象となる点に注意が必要です。
次に、法衣等の貸与や支給については、法衣が宗教活動遂行に必要な制服的なものであれば給与課税の対象外となります。例えば、住職が業務執行に必須な特定の袈裟や着物を法人から貸与されている場合は経済的利益の提供としません。ただし、飾りや私的利用が想定される装飾品などは給与所得と判断される可能性があります。
さらに、宗教法人が住職や職員の私的な飲食費や家族の教育費、たとえば子弟の学費を負担した場合、それは給与として課税対象となります。税務署はこうした福利厚生的な経済的利益の取扱いを厳しく監査し、不適切な処理を指摘しますので、見落としがないか日頃からチェックが必要です。
また、現物給与の評価は適正な時価で行い、法人の源泉所得税計算基礎に反映させる必要があります。この点で去年より上昇した市場価値があれば、それを踏まえる必要があり、評価の根拠も資料で保存しておくことが求められます。
これらの現物給与の取扱いは国税庁のマニュアルにも明記され、宗教法人の税務担当者は的確に判断できる能力を養うことが望まれます。税理士を中心とした専門家の助言のもと、帳簿および関連文書を整備し、適切に源泉徴収を行う運用体制の構築が宗教法人の安定運営には不可欠です。


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