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税理士事務所

経営者の退職金は相続対策になる?生命保険を活用するメリットと注意点

「会社を息子に引き継ぐとき、自分の退職金をどうするか?」

事業承継を考え始めた経営者の方から、よく出てくるテーマです。

特に、会社に余裕資金がある場合には、役員退職金と生命保険を組み合わせて、将来の退職金を準備する方法があります。

一方で、「生命保険に入れば相続税対策になる」と単純に考えるのは少し危険です。

今回は、事業承継を7年後に予定している63歳の経営者を例に、役員退職金と生命保険を相続対策に活用する際のポイントを整理します。

1.経営者の「事業承継」と「相続」はセットで考える

会社を長年経営してきた方の場合、事業承継と相続は別々の問題ではありません。

後継者に会社を譲るときには、

・会社の株式を誰に引き継ぐのか
・経営者自身の退職金をどうするのか
・会社にどれだけ資金を残すのか
・相続人の間で財産をどう分けるのか
・相続税をどう準備するのか

といった問題を一緒に考える必要があります。

今回のケースでは、63歳の経営者が7年後をめどに長男へ代表を譲る予定です。

つまり、今から「退任時の退職金」と「万一の場合の死亡退職金」の両方を考えておくことが重要になります。

2.役員退職金は相続対策になるのか?

結論からいうと、役員退職金が相続対策として有効になるケースはあります。

ポイントは、「誰が、いつ、どのような形で受け取るのか」です。

生前に退任して本人が受け取る場合、原則として退職所得として扱われます。

一方、経営者が亡くなったことによって支給される死亡退職金は、一定の場合に「みなし相続財産」として相続税の対象になります。

ここで重要なのが、死亡退職金には一定の非課税枠があることです。

3.死亡退職金には「500万円×法定相続人」の非課税枠がある

死亡退職金には、相続人が受け取る場合、

500万円×法定相続人の数

という非課税限度額があります。

今回のケースでは、想定される相続人は、

・妻
・長男
・長女
・二女

の4人です。

そのため、単純化すると、

500万円×4人=2,000万円

が非課税限度額となります。

もちろん、実際の相続税計算では他の財産や相続人の状況なども確認する必要があります。

ただ、「会社から死亡退職金を支給する」という仕組みには、通常の預貯金などとは異なる税務上の特徴があることは、経営者として知っておきたいポイントです。

4.「退職金をもらうと相続財産が増えるのでは?」という疑問

ここは非常に重要です。

生前に多額の退職金を受け取れば、そのお金は当然ながら経営者個人の財産になります。

そのため、すでに個人の流動資産が十分にある方の場合、「会社から退職金をもらえば、相続財産が増えてしまうのでは?」という考え方もできます。

つまり、

退職金=必ず相続対策になる

わけではありません。

むしろ、退職金を受け取った後の個人財産まで含めて、相続全体を考える必要があります。

ここを見落として「節税になりそうだから」という理由だけで退職金の金額を決めるのは避けたいところです。

5.生命保険で役員退職金を準備する方法

今回、金融機関から提案されたのが生命保険を利用して退職金を準備する方法です。

会社から2,000万円を保険料として支払い、将来、経営者が退任するときには保険契約そのものを退職金として渡す、あるいは死亡時には死亡退職金の財源として活用するという考え方です。

この方法には、

・会社の余剰資金を将来の退職金財源に振り替えられる
・死亡時の退職金の財源を準備できる
・生前退任の場合には、保険契約を個人に移す方法も考えられる

といったメリットがあります。

ただし、ここで「会社のお金を保険に変えただけだから安心」と考えてはいけません。

6.生命保険を活用するときの4つの注意点

まず一つ目は、会社の資金が固定されることです。

保険料として2,000万円を支払えば、その2,000万円を自由に運転資金として使えるわけではありません。

設備投資や人材採用、取引先への支払いなど、会社には将来どのような資金需要が発生するか分かりません。

二つ目は、短期間で解約すると元本割れする可能性があることです。

「2,000万円払ったから、いつでも2,000万円以上戻ってくる」という商品ではありません。

三つ目は、長期間保有することで契約内容を把握しにくくなることです。

加入した当初は目的が明確でも、社長の交代や経理担当者の変更などによって、なぜ加入した保険なのか分からなくなるケースもあります。

四つ目は、将来の経済環境や受け取る時期によって、実質的な価値が変わることです。

保険金や返戻金の金額だけを見るのではなく、「その時点で会社にとって本当に必要な資金なのか」という視点も必要です。

7.「保険をそのまま退職金にする」という方法にも注意

今回の提案では、生前に退任した場合に生命保険をそのまま退職金として受け取る方法も示されています。

確かに、個人がその後も終身保険として保障を持てるというメリットはあります。

しかし、これも全員に必要とは限りません。

すでに個人で十分な生命保険に加入している場合、追加の保障が不要な可能性もあります。

また、保険契約そのものを退職金として支給する場合には、現金を受け取る場合とは異なる論点も出てきます。

「保険があるから安心」ではなく、退任時点で本人にとってその保険が本当に必要なのかまで考えることが大切です。

8.役員退職金規程がない会社はどうする?

今回のケースでは、役員退職金規程が作られていません。

役員退職金については、一般的に、

最終報酬月額×在任年数×功績倍率

などを参考に適正額を検討します。

また、同業他社の水準や役職、会社への貢献度なども重要な判断材料になります。

従業員の退職金とは異なり、役員退職金の支給額は会社の株主総会によって決定される点にも注意が必要です。

特に長年会社を経営してきたオーナー経営者の場合、退職金の金額が大きくなりやすいため、「いくらまでなら税務上問題ないのか」だけでなく、「会社の財務体力から見て無理のない金額なのか」も確認しておきたいところです。

9.相続対策は「税金」だけで考えない

経営者の相続対策でありがちな失敗が、「相続税が安くなるか」だけを見てしまうことです。

実際には、

会社の資金繰り

事業承継

経営者個人の財産

相続人への財産分配

相続税

を一つの流れとして考える必要があります。

例えば、相続税を減らすことができても、そのために会社の資金繰りが苦しくなれば本末転倒です。

また、長男が会社を引き継ぐ一方で、長女や二女にも相続財産を残すのであれば、家族間のバランスも考えなければなりません。

税金だけでなく、「誰に、何を、どのタイミングで引き継ぐのか」という視点が欠かせません。

10.退職金・生命保険・相続をまとめて設計する

今回のように、

「63歳」
「7年後に長男へ事業承継」
「個人資産は十分」
「会社に余剰資金がある」
「相続人は妻と子3人」

という状況であれば、役員退職金と生命保険を検討する余地はあります。

ただし、生命保険への加入ありきで考えるのではなく、

①会社に必要な運転資金はいくらか
②退任時の役員退職金はいくらが妥当か
③死亡した場合の退職金をどうするか
④個人の現在の財産はいくらあるか
⑤現在加入している生命保険はどの程度あるか
⑥長男への事業承継をどう進めるか
⑦妻・長女・二女への財産配分をどうするか

を順番に整理することをおすすめします。

特に、生命保険は一度契約すると長期間にわたって資金が固定される可能性があります。

「相続対策になるから」という理由だけで2,000万円を保険に入れるのではなく、会社の財務状況と将来の事業承継計画を踏まえて、本当に必要な金額なのかを検討することが大切です。

まとめ

役員退職金は、事業承継と相続を考えるうえで有力な選択肢の一つです。

死亡退職金には「500万円×法定相続人」という非課税限度額があるため、今回のケースでは2,000万円という枠が一つの重要なポイントになります。

一方で、生命保険を活用する場合には、資金の固定化や解約時の元本割れなど、見落とせないデメリットもあります。

経営者の相続対策では、「節税できるか」だけではなく、会社を守りながら、後継者に事業を引き継ぎ、家族にも納得できる形で財産を残せるかという視点が重要です。

事業承継が7年後なら、「まだ先の話」と考えるには少し早いくらいです。

退職金、生命保険、会社の株式、個人財産、相続税を一度に整理してみると、今のうちに準備しておくべきことが見えてきます。

なお、実際の役員退職金の適正額や生命保険の税務上の取扱いは、会社の状況や契約内容によって異なります。

金融機関から提案を受けた場合も、加入を決める前に、**「この保険が自社の事業承継と相続に本当に合っているのか」**という視点から税理士などの専門家に確認することをおすすめします。

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