クレメンティア
税理士事務所
取引先の代表者が亡くなったら売掛金は請求できる?中小企業が知っておきたい債権回収のポイント
取引先から「社長が亡くなったので、支払いはしばらく待ってください」
もし、このように言われたら、どう対応しますか?
特に中小企業の場合、社長が会社の経営、営業、経理などを一手に担っていることも珍しくありません。
そのため、代表者が亡くなると、会社の業務そのものが止まってしまうことがあります。
しかし、ここで注意したいのは、「代表者が亡くなったこと」と「会社の支払い義務」は別の問題だということです。
今回は、取引先の代表者が亡くなり、売掛金が長期間回収できなくなったケースを題材に、中小企業経営者が知っておきたい債権回収のポイントを解説します。
1.取引先の社長が亡くなった!売掛金はどうなる?
まず押さえておきたいのが、会社と代表者は法律上、別の存在だということです。
株式会社などの法人は、代表者個人とは別の法人格を持っています。
そのため、代表者が亡くなったからといって、会社が負っている買掛金や未払金などの債務がなくなるわけではありません。
反対に、こちらが取引先に対して持っている売掛金についても、代表者の死亡だけを理由に請求できなくなるわけではありません。
「社長が亡くなったから、相続が終わるまで支払いません」
と言われた場合でも、その事情だけで会社の債務そのものが消えるわけではない、という点は理解しておきましょう。
2.会社の債務と社長個人の相続は別問題
ここで混同しやすいのが、「会社」と「亡くなった代表者個人」の財産です。
たとえば、社長個人が所有していた自宅や預金などは、相続人の間で遺産分割協議の対象になる可能性があります。
一方、会社名義の預金や、会社が取引先に対して負っている債務は、基本的には会社の問題です。
つまり、
「社長の相続が終わっていない」
↓
「だから会社も一切支払えない」
と単純に考えることはできません。
ただし、実際の会社運営では別の問題が発生します。
3.代表者が亡くなると会社の支払いが止まる理由
法律上は支払義務が残っていても、実務上は会社が動けなくなっているケースがあります。
たとえば、
・会社の銀行口座を実質的に社長だけが管理していた
・インターネットバンキングの操作を社長しかできない
・会社の重要書類や印鑑を社長が管理していた
・後任の代表者がまだ決まっていない
・社内で誰が意思決定をするのか整理できていない
といった状況です。
このような場合、「支払う義務がない」のではなく、支払いを実行するための会社の体制が整っていないということがあります。
経営者としては、この2つを区別して考えることが重要です。
4.「相続人が決まっていないから払えない」はどう考える?
今回のようなケースでよく出てくるのが、「現在、相続人による遺産分割協議をしているので支払えない」という説明です。
しかし、遺産分割協議の対象となるのは、基本的に亡くなった方が残した財産です。
会社そのものは、代表者個人の相続財産ではありません。
そのため、代表者個人の相続手続きと、会社が負っている支払義務は切り分けて考える必要があります。
もっとも、代表者が会社の実権をほぼ一人で握っていた場合には、後任者の選任などが必要となり、結果として会社の支払いが事実上滞ることはあります。
だからこそ、経営者側としては「相続が終わるまで待つ」という対応を漫然と続けるのではなく、会社としてどのような状態なのかを確認する必要があります。
5.B社から自社へ直接支払ってもらうことはできる?
少し特殊なケースですが、今回の相談ではもう一つ重要なポイントがあります。
たとえば、
「A社がB社に対して持っている売掛金を、B社からA社ではなく、私たちの会社に直接払ってもらえないか?」
というケースです。
一見すると、
「どうせA社に入るお金なのだから、こちらに直接払ってもらえばいいのでは?」
と思ってしまいます。
しかし、ここには注意が必要です。
A社について法律上有効な手続きや承諾がないまま、B社から直接支払いを受けてしまうと、後になってB社がA社から改めて支払いを求められる、いわゆる二重払いの問題が生じる可能性があります。
「A社に話はしてある」という程度で処理するのではなく、法律関係をきちんと整理することが重要です。
6.一番怖いのは「二重払い」のリスク
中小企業の取引では、相手との信頼関係から、口頭で話を進めてしまうことがあります。
しかし、代表者が亡くなった後のように会社の権限関係が不安定な時期には、通常以上に慎重な対応が必要です。
たとえばB社が、
「A社から言われたので、A社への支払いを御社にしました」
としても、後からA社の新しい代表者が、
「その支払いはA社への支払いとして認められない」
と主張する可能性があります。
そうなると、B社にとっては非常に困ったことになります。
そのため、「直接払ってもらえば早い」という発想だけで動かないことが大切です。
契約関係や債権関係を整理したうえで、必要な手続きを踏むことが重要になります。
7.売掛金が回収できないとき、経営者が確認すべきこと
取引先からの支払いが長期間止まっている場合、自社でまず確認しておきたいことがあります。
たとえば、
・売掛金はいくらあるのか
・支払期日はいつだったのか
・どの取引から発生した債権なのか
・契約書や発注書、請求書は残っているか
・これまでどのような支払いを受けていたか
・取引先の会社は現在も営業しているか
・代表者変更などの手続きが進んでいるか
といった情報です。
特に重要なのは、「いくら回収できていないのか」を数字で明確にすること。
売掛金は帳簿上では資産ですが、実際に入金されなければ会社の資金繰りには使えません。
「まだ売掛金として残っているから大丈夫」と考えているうちに、資金繰りに影響が出てしまうことがあります。
8.話し合いで解決しないなら、法的手続きも検討する
もちろん、まずは取引先との話し合いによって解決できるのであれば、それに越したことはありません。
しかし、支払いが長期間止まっている場合には、いつまでも待ち続けることが適切とは限りません。
状況によっては、取引先に対して正式に請求し、それでも支払いがなければ訴訟などの法的手続きを検討することになります。
さらに、判決などを取得したうえで、取引先の預金や、取引先が第三者に対して持っている債権を差し押さえるといった方法が検討される場合もあります。
ただし、代表者が不在となっている会社を相手に法的手続きを進める場合には、特別代理人の選任など、通常とは異なる手続きが必要になることがあります。
この部分は税理士だけで判断せず、早めに弁護士へ相談することが大切です。
9.税理士の立場から見る「売掛金を放置するリスク」
税理士として中小企業の経営者の方とお話ししていると、「取引先なので、もう少し待ってみます」というケースがあります。
もちろん、長年の取引関係や相手方の事情を考慮することは大切です。
ただし、経営という観点では、売掛金は「いつか入ってくるお金」ではなく、**「実際に回収できるのかを管理すべき資産」**です。
回収が遅れれば、その分だけ自社の資金繰りにも影響します。
さらに、最終的に回収できなくなった場合には、税務上の貸倒れの問題も出てきます。
「売掛金がある」という事実と、「その売掛金を回収できる」ということは同じではありません。
だからこそ、異常が起きた段階で、売掛金の金額や回収可能性を確認しておくことが重要です。
10.まとめ:社長が亡くなっても、売掛金まで消えるわけではない
今回のポイントをまとめます。
・会社と代表者は法律上、別の存在
・代表者が亡くなっても、会社の債務が当然になくなるわけではない
・代表者個人の相続問題と、会社の支払義務は切り分けて考える
・一方で、代表者死亡によって会社の実務が止まることはある
・第三者から直接支払いを受ける場合には、二重払いのリスクに注意する
・売掛金の回収が長期間止まっているなら、早めに専門家へ相談する
中小企業では、社長一人に会社の権限や情報が集中していることも少なくありません。
そのため、代表者に万一のことがあると、「会社としては支払う義務があるのに、実際には会社が動かない」という事態が起こることがあります。
自社が売掛金を抱えている場合も同じです。
「取引先の事情だから仕方ない」と待ち続けるのではなく、
①いくら未回収なのか
②なぜ支払いが止まっているのか
③今後、回収できる見込みはあるのか
④どの段階で法的手続きを検討するのか
を整理しておくことが、経営者にとって重要です。
税理士としては、売掛金や資金繰り、貸倒れなどの「数字」の部分を整理しながら、必要に応じて弁護士など他の専門家と連携することが、こうした問題への現実的な対応だと考えています。
「まだ少額だから」「長年の取引先だから」と放置せず、気になる売掛金があれば、早めに状況を整理してみてください。
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法律問題についての判断を示すものではありません。具体的な請求方法、差押え、代表者不在時の手続き等については、弁護士等の専門家にご相談ください。
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