クレメンティア
税理士事務所

事業主こそ見直したい「労災保険の特別加入制度」
~給付基礎日額の選び方で、もしもの備えが変わる~

「労災保険は従業員のための制度」
そう考えている経営者の方は少なくありません。
しかし実際には、中小企業の経営者や役員にも、業務中の事故やケガのリスクは存在します。特に現場作業や営業活動を行う経営者であれば、そのリスクは決して小さくありません。
そんな経営者を守る仕組みが「労災保険の特別加入制度」です。
今回は、特別加入制度の中でも見落とされがちな「給付基礎日額」について、経営者の視点から解説します。
■ 労災保険は原則として事業主を守らない
労災保険は、本来、労働者が業務中や通勤途中に負傷・疾病・死亡した場合に補償を行う制度です。
そのため、個人事業主や法人の役員は原則として対象外となります。
しかし、中小企業では経営者自身が現場で働くケースも多く、実態としては従業員と同じような業務を行っていることも珍しくありません。
そこで設けられているのが「特別加入制度」です。
一定の要件を満たす中小企業事業主等であれば、任意で労災保険に加入し、万が一の際に補償を受けることができます。
■ 給付額を決める「給付基礎日額」とは
特別加入制度で重要になるのが「給付基礎日額」です。
一般の労働者の場合、労災給付は平均賃金をもとに算定されます。
一方、特別加入者の場合は、自ら選択した給付基礎日額を基準として給付額が決まります。
選択できる金額は、
・3,500円
・4,000円
・5,000円
・6,000円
・7,000円
・8,000円
・9,000円
・10,000円
・12,000円
・14,000円
・16,000円
・18,000円
・20,000円
・22,000円
・24,000円
・25,000円
の16区分です。
休業補償などの給付額は、この給付基礎日額を基準に計算されます。
つまり、低く設定すれば保険料負担は軽くなりますが、実際に事故が起きた際の補償額も小さくなります。
■ 「保険料を安くしたい」が落とし穴になることも
経営者の中には、
「どうせ使わないから最低額でいい」
と考える方もいます。
しかし、もし事故や病気によって長期間働けなくなった場合、経営者本人の収入減少は会社経営にも直結します。
例えば、
・現場作業中の転落事故
・営業中の交通事故
・機械作業中のケガ
などにより数か月休業するケースもあります。
経営者が動けなくなることで、
売上減少

利益減少

資金繰り悪化
という連鎖が発生する可能性もあります。
そのため、単純に保険料だけで判断するのではなく、
「自分が1か月働けなくなった場合に必要な生活費や会社への影響」
という視点で給付基礎日額を考えることが大切です。
■ 給付基礎日額は年度ごとに見直せる
給付基礎日額は年度単位で変更できます。
主な変更時期は次の2回です。
①事前申請
3月2日~3月31日
②年度更新期間
6月1日~7月10日
ただし、年度更新期間中の変更申請は、すでに労災事故が発生している場合には認められません。
そのため、毎年3月の事前申請で計画的に見直すことが望ましいでしょう。
■ 経営者にとっての「リスクマネジメント」
私は税理士として多くの中小企業を支援していますが、経営計画や資金繰り対策に力を入れる経営者ほど、意外にご自身の保障については後回しにしているケースがあります。
しかし、会社にとって最大の経営資源は「経営者自身」です。
設備や商品は代替できますが、経営者の判断力や人脈、信用は簡単には代替できません。
だからこそ、
・生命保険
・所得補償保険
・労災保険の特別加入
などを含めた総合的なリスク対策が重要になります。
■ まとめ
労災保険の特別加入制度は、経営者自身を守るための重要な制度です。
特に給付基礎日額は、
「保険料をいくら払うか」
ではなく、
「万が一のときにどの程度の保障を確保したいか」
という観点で検討することが重要です。
令和8年度の年度更新期間でもありますので、この機会に一度、自社の特別加入の内容を確認してみてはいかがでしょうか。
経営者自身の備えは、結果として会社と従業員を守ることにもつながります。


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