クレメンティア
税理士事務所

事業承継で株式を贈与したら安心?―「遺留分」と株価評価で後から揉めないための実務ポイント

「長男に株式を贈与して事業承継は進めた。これで一安心」
多くの中小企業経営者の方がそう感じておられると思います。
しかし実務では、その後の相続時に「遺留分」をめぐって兄弟間のトラブルが起きるケースは少なくありません。
特に注意したいのは、「いつの株価で計算されるのか」「10年以上前の贈与なら大丈夫なのか」という点です。今回は、事業承継対策として株式を贈与した場合に、経営者が押さえておくべき遺留分の考え方を、現場目線で整理します。
――――――――――――――――――
見出し1:株式を贈与しても「遺留分」の問題は残る
――――――――――――――――――
まず大前提として、事業承継目的で株式を生前贈与した場合でも、その株式は遺留分の計算対象になる可能性があります。
原則はシンプルです。
■ 死亡前10年以内の贈与
→ 原則として遺留分の対象になる
これは、特例事業承継税制を使っていても、相続時精算課税制度を使っていても、同じです。
税務上の優遇制度と、民法上の遺留分は「別のルール」で動いているからです。
ここを混同すると、
「税金はゼロになったのに、争いは残った」
という事態になりかねません。
――――――――――――――――――
見出し2:「10年以上前なら安全」とは言い切れない理由
――――――――――――――――――
よくある誤解が、これです。
「10年以上前に贈与すれば、遺留分の対象にならない」
確かに原則はそうですが、例外があります。
次のような事情があると、10年以上前でも対象になる可能性があります。
・贈与した財産が、ほぼすべてだった
・贈与時点で高齢だった
・健康状態が良くなかった
・将来、財産が増える見込みがほとんどなかった
つまり裁判では、
「その時点で、他の相続人が不利になると分かっていたか」
という視点で総合判断されます。
ここは、単なる年数計算ではなく、
「状況判断」になるのが実務の怖いところです。
だからこそ私は、
**「時間」だけでなく「バランス」も同時に設計すること**
が重要だと考えています。
――――――――――――――――――
見出し3:遺留分は「贈与時の株価」ではなく「死亡時の株価」で計算される
――――――――――――――――――
ここは、経営者の方が最も驚かれるポイントです。
遺留分の計算は、
**贈与した時の株価ではなく、死亡時の株価**
で行われます。
つまりこういうことです。
例:
・贈与時の株価
 1,000万円
・死亡時の株価
 5,000万円
→ 遺留分は
 5,000万円ベースで計算される
会社が成長した場合ほど、
遺留分トラブルのリスクは大きくなる
という構造になっています。
これは、事業承継が成功した会社ほど起きやすい問題です。
まさに
**「成功したから揉める」**
という、経営者にとって皮肉な現実です。
――――――――――――――――――
見出し4:株価評価は「税務評価」とは限らない
――――――――――――――――――
さらに実務上の注意点があります。
遺留分の計算で使われる株価は、
■ 相続税評価額
■ DCF法(将来利益ベース)
■ 純資産価額法
■ 類似業種比準法
など、複数の方法が主張される可能性があります。
そして最終的には、
**裁判所が「妥当」と判断した評価額**
が採用されます。
ここが非常に重要です。
つまり、
■ 税理士が計算した株価

■ 遺留分で使われる株価
とは限らない、ということです。
特に注意が必要なのは、
・急成長している会社
・利益が大きく伸びている会社
・将来性が高い会社
こうした会社ほど、
**DCF法で高く評価されやすい**
という現実があります。
――――――――――――――――――
見出し5:揉めない事業承継に必要なのは「税金対策」ではなく「関係対策」
――――――――――――――――――
ここが一番お伝えしたいポイントです。
事業承継の本当のリスクは、
税金ではなく
人間関係です。
私は現場で何度も見てきました。
■ 税金はゼロ
■ でも家族は分裂
これは決して珍しい話ではありません。
だからこそ重要なのは、
次の3つです。
① 遺留分を事前に試算する
② 他の相続人への配慮を設計する
③ 早い段階から説明しておく
特に③は、非常に効きます。
多くの争いは、
「金額」ではなく
「納得感」から生まれるからです。
――――――――――――――――――
まとめ:事業承継は「株を渡したら終わり」ではない
――――――――――――――――――
今回のポイントを整理します。
■ 株式の生前贈与は、原則10年以内なら遺留分の対象
■ 10年以上前でも対象になる可能性がある
■ 遺留分は死亡時の株価で計算される
■ 株価評価は税務評価とは限らない
そして何より重要なのは、
**事業承継は「税務」だけでは完結しない**
ということです。
経営者にとっての本当のゴールは、
会社を残すこと
だけではなく
家族関係も残すこと
だと私は考えています。
そのための準備は、
早いほど、そして丁寧なほど、
確実に効果があります。

Instagram

インスタグラム

    Related

    関連記事